小説 野性時代
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30万部突破の『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』からさらに一歩踏みこんだLOVE&SEX実践篇!【新連載試し読み】西原理恵子「これから歩いていく女の子たちに、知っておいてほしいこと」
9月12日(土)発売の「小説 野性時代」2020年10月号では、西原理恵子さんの新連載「これから歩いていく女の子たちに、知っておいてほしいこと」がスタート。その冒頭を公開します!
プロローグ
本当は、パンツをぬぐ前に知っておいてほしいこと。
人間は、体が傷つくと、心も傷つく。
まして、女の子なら、なおさら。
いま、世の中を見まわすと、いろんな事件がありますよね。事件とまでは言えなくても、若い、まだ未熟な女の子というだけで、不用意に傷つけられることがある。
笑いごとにして切り抜けようとしても、うまくいかないとしたら、本当はすごく傷ついたから。どうしたらいいかわからなくて、心も体も悲鳴をあげている。そんな女の子が、いまの日本にはたくさんいる気がします。
生きていくというのは、なんだ坂、こんな坂、まさかの連続だから、自分のことを責めたり、声をあげることもできずにいる人もいるかもしれない。こんなこと、誰にも言えない。親にも、友だちにも言えない。そんな時、あなたとあなたの体を守るために知っておいてほしいことを伝えたくて、この本をつくろうと思いました。
たとえ法律で裁けなかったとしても、あなたが自分で望まないことを、望まないやりかたでされたとしたら、それって暴力だから。すり傷で済めば、まだマシで、もっと深い傷を負ってしまうことだってある。
そうなった時に、どうしたらいいのか。
前もって知っておくことで、くぐりぬけられること、避けられることもあるんじゃないかと思うんです。
気をつけているつもりでも何があるかわからないのが世の中だから、荒海に漕ぎ出していくのなら、あの手この手の知識を身につけることが、自分の身を自分で守るための武器になる。
いちばん心配なのは、傷ついたあなたが「どうせ取り返しがつかないのだから、何もかもどうでもいい」と自暴自棄になってしまうこと。
これからお話しすることは、いやなことが起こったとしても、あなたが自分のことを責めないために知っておいてほしいこと。転ばぬ先の杖というより、転んだあとの杖。
どこの親だって、本当はいつも心配で、言いたいことが山ほどあります。
「彼氏できた?」くらいは、まだ全然言えるかもしれない。でもセックスについて、親と話す女の子は、まずいない。本当はいちばんに話し合い、知ってないといけないことなのにね。
日本の性教育はヘタするといまだに「おしべとめしべ」のレベルだったりして、親も学校の先生も、持ってる知識が間違ってたり、とんでもなく古かったりするんだこれが。お金の話と一緒で、セックスの話も、大切なことなのに言葉にするのは「はずかしい」っていう日本人ならではの感覚がいまだに幅をきかせている。
ネットには情報があふれているけど、エロもセックスもごちゃまぜだから、余計にあなたを混乱させるかもしれない。女の子を狙った商売や犯罪があとを絶たないっていうのに、持ってる武器は棒きれ1本みたいな。ちぐはぐなんですよ。大人から見れば、丸腰もいいとこ。ものすごく無防備に見える。
だからって、イチかバチかで1歩踏み出して、うっかり転んだからって「知らない方が悪い」なんて言われたくないですよね。
しかも、女の子の場合、何かあれば、こっちが「ふしだら」ってことにされちゃう。
あれって、一体、何なんでしょうね。
まさか「結婚するまで処女でいろ」なんて、いまどき思ってる人はいないだろうって思いたいけど、いるんだ、これが。そこまで極端じゃなくても「女の子は清楚がいちばん」ってヤツ。「あなたにも油断があったんじゃないの」って、わけ知り顔で言いたがる人とかね。
ミニスカートはいてたからって、そんなの、あなたの自由です。
お洒落して夜遊びするのだって、楽しいもんね。じゃんじゃんやれ、って思っちゃう。あれもダメ、これも禁止なんて言われたくないし、そんなのどんどんぶち破って突き進むのが、若さってもんですよ。
恋をすれば、セックスするのはとても自然なこと。セックスをするなら、避妊もしてほしいし、どうすれば、できるだけ傷つかないで済むのか、ちゃんと知っておいてほしい。でも、どんなに用心に用心を重ねていたとしても、失敗するのが人間です。
間違えたり、転んだりしながら、また次の恋をしたり、しなかったり、結婚したり、しなかったり、子どもを産んだり、産まなかったりするわけで、そういうなんだかんだをすっ飛ばして、いきなり幸せになれるもんじゃないんだから。その途中で何回しくじろうと「遊んでる」なんて言われてたまるもんですか。
転ばない用心も大事だけれど、転んでも、また立ち上がることは、もっと大事、転んだことのない人間なんて、ひとりも、いないんですから。
自分もいろいろあったから、この人もいろいろあったんだろうなって、思いやってあげられるようになるっていうのが「大人になる」ってことだと思うんです。それで言ったら、十代、二十代なんて、まだ入り口に立ったばかり、先はうんと長い。
傷ついてほしくはないけど、臆病になってほしくもないんですよ、女の子たちには。
どんどん現場に出て、自分から幸せをつかみにいってほしい。
これから世の中に出て、立派な大人の女性になろうっていうのに、残念ながら、世の中の方は立派にはできていないんです。
制度とか偏見みたいものは、文化とか宗教とか歴史とかもっと大きなものと複雑に絡み合っていて、ちょっとやそっとじゃ手におえない化け物みたいなものだから、どうにかしたくても、今すぐどうにかできるもんじゃない。たぶん50年後には少しはマシになってるだろうけど、50年後まで待ってられないじゃないですか。
あんなひと筋縄じゃいかない化け物と若い娘さんがひとりで戦おうったってムリがある。傷ついて消耗してほしくないですよ。古い考えを更新できない妖怪オヤジたちの相手は、先に現場に出てるおばちゃんたちに任せて、これから歩いていく女の子たちには、もっと自由に自分たちの新しい常識をつくっていってほしい。
どんな時代でも女の子は、きっと、自分で楽しいこと、面白いことを見つけて、「泣いてばっかりいるわけにはいかない」って、思いっきり生きていったんだと思うから。
今がしんどくても、どうかあきらめないで。
まず自分の身を守る知識を得ること。
今、傷ついているのなら、焦らないこと。どんな傷でも治すには、時間が要る。昔っから「時間薬」って言葉があるくらいでね。ケガしてるとき、無理することないんですよ。じっと身を守りながら、あなたがどうしたいか、どんなふうに生きていきたいのか、そっちを大切に考えていってほしい。
何があろうと、まだ終わりじゃない。生き延びること。
そこから、また始めたら、いいんだと思います。
(このつづきは「小説 野性時代 2020年10月号」でお楽しみください)
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